首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

5月3日の小田原……その一

巷で、人によって、運がよく都合がつけば十一連休も可能といわれるゴールデンウイークが、昨日で終わった。
 もっとも、物書きなどという自由業の僕のような人間にとっては、忙しい時は忙しいが暇な時は暇……土曜、日曜、休日はほとんど関係がない生活を何十年も続けている。
 街を歩いて、人の波が多いと「あ……今日は日曜か休日か……」と思うぐらいである。
 でも、今年はいささか違っていた。
 五月三日に、常設されることになった小田原文学館の展示コーナーを拝見するのと小田原市立図書館の関係者のみなさんへの御挨拶もかねて、小田原北條五代祭りを見に行ったのだ。
 娘の生まれ故郷でもある早川(小田原の隣の駅であり、日本にあるJRの駅で最も海に近い駅であり、小田原漁港もある)から歩いて小田原城に行くコースをとったのだが……このコースは戦国時代末期に豊臣秀吉小田原城を攻めるために作った石垣山一夜城跡も近くにあり健脚または車で来る方には、海と山の両方そろった僕のお勧めコースである……いずれにしろ東京近辺から来る場合、小田原駅で、新宿からの小田急ロマンスカーか東京、品川からの新幹線なら、早川駅に行くためにJR東海道線の普通に乗り換えることになる。
 最初から普通や急行、ライナー、で行くと、東京からだと山手線のどの駅からも、千5百円程度、二時間はかからない。ちなみに、小田急の普通や急行を使うともっと安い。
 で、小田原駅に着いた途端、すごいことになっていた。
 人の波である。
 それも、背後のおじさんが、「わあ、まるで万博だあ」とあきれて呟くほどの人の波……目指すは小田原城……もっとも、子供の時、大阪万博に行った覚えのある僕にしてみれば、あの時ほどではないが、それでも今年の東京国際アニメフェア(これもすごい)休日のディズニーランド(おじさんの僕にとっては、勘弁してもらいたい人の波である)をしのぐと思われる混雑である。
 しかも、改札口や駅構内には、武者姿や腰元姿にコスプレした人がかなりいて、祭りの案内用のチラシを配っている。
 駅の改札口を出た途端、不思議な世界である。
 もっとも、一緒に行った娘と僕の目指すのは、とりあえず早川駅である。
 人波をかき分け、JR東海道線で早川へ……
 正直言って、海が近いのが取り柄だけの田舎の駅である。
 海の香りを嗅ぎほっとして、駅を出て、港に向かうとなんだか変である。
 本来、小田原の港での釣りは出入りする漁船の邪魔なので禁止されているはず……だったと思う……釣りをあまりしない僕は、そこのところを気にしていなかったのだが……なんだかやたら釣り糸を垂らす人が多い。
 それも家族連れが多い……港の中では小魚しかいないし、たいして釣れもしない。
 つまり、釣りの雰囲気を家族でのんびり楽しんでいるのである。
 驚いたのは、魚市場付近である。
 やたら、洋食和食の魚料理の店が増え、しかも、客が並んでいる。
 海を借景にしたイタリアンレストランやフレンチレストランがある。
 もちろん満席!?……昼間はもちろん、夜は人の姿などほとんど見かけないところだったのに……
 海辺に行きたいと娘が言う。港の堤防から海辺に行けるところはいくつもあり、しかし、有名無実の「危険。立ち入り禁止」の立て札がある。が、娘が小学生の頃は、「そんなの関係ねえ」で、海辺に行っていた。
 ところが、休日のその日、そこここに、お巡りさんが何気に「入っちゃ駄目」気分でぽつりぽつり立っているではないか。
 有名有実の「立ち入り禁止」である。
 しかし、海辺には、釣り人や、散歩しているカップルや、少数グループの女の子たち、シートを敷いて海を見ている人達もいる。
「あの人たちは?」と聞くと、「あ、海水浴場の方から来ちゃうんですよね」
確かに、小田原には、御幸の浜という海水浴場がある。
夏には、大規模な花火大会や、大きな松明(たいまつ)を燃やす祭りでにぎわう。
しかし、海沿いに歩いて港までは一キロはあるはず……おじさんの僕には、そんな根性はない。
「今日は、天気もいいし、波もないから、海水浴場の方から来るなら仕方ないでしょう」と、お巡りさんものんびりである……。
 でも、お務めだから、一応立っている。
 しかし、なんたって目の前に広がるのは相模湾である。
 海の向こうはアメリカである。
 海辺に行かない手はない。
 地元を知る僕である。
 堤防から海辺に行けないならばと、相模湾に注ぎ込む早川ぞいに海辺に行く。(早川は箱根から流れてくる川で駅名の由来。解禁時には鮎釣り客が来る。正直言って、まともな大きさの鮎を釣った人を見たことがない。多分上流の箱根でほとんど釣られて、早川の漁港あたりの川では三・四時間かけて、鮎らしきものが一匹という感じ……つまり、みなさん、鮎を釣る為ではなく、鮎釣りという行為を楽しんでいるのである。こっそり言うと、地元の内緒話では、解禁前、港にかなり集まってくる鮎の稚魚が美味いのだが、これ、あくまで内緒である。釣っているのを見つかって叱られても、僕は関知しないからそのつもりで……)。
ともかく相模湾に面した五月の海辺である。
のどかである。
海は広い。
カップルもいちゃつくのを忘れ、ゆったりと海を見ながら歩いている。
そこは夏には芋を洗うような江の島やこじゃれた葉山とは違う海辺である。
なにもすることがない。
小石を拾って海に投げるぐらいである。
で、小田原城に向かって海辺を離れると、そこはもう城下町である。
東海道の宿場町でもある。
が、その前に、小田原の格調高い屋敷町の通りがある。西海子(さいかち)小路という桜並木の名所である。この通りに文学館がある。
この小路、明治以後、大文豪と言われる人たちが住んだり、出たり、入ったりして、おまけに夫婦交換なんて、今でも考えにくい進んだ?スキャンダル大事件? をしてくれて不倫小路と苦笑交じりに言う人もいて、新宿や吉原じゃないんだけど、小路の風情が格調高いだけに連なる屋敷の塀を見ながら「へえ……?」というおやじギャグ気分にさせられたりもするのは僕だけだろうか? 
 ともかく、面白がり方が様々にできるのである。
で、細かく云えば、更に西海子小路の手前……早川に架かる橋の先に、小さな酒屋がある。
このお店、なぜか、超ミニミニのおとぎの酒屋である。
なんのこっちゃ?
つまり、お店がお子様向けメルヘン仕上げなだ。
くりかえすが、酒屋が……である。
書いている僕もわけが分からないが、この店のおばさんは、不思議の国のアリスのコスプレをしている。
夜、車を運転していて、たまたま店の前を通りかかって、ヘッドライトに浮かび上がったそのおばさんが通りを横切る姿を見た時、思わずブレーキを踏みこんだ時のことを今でも思い出す。
あれは夢か幻か……
昼間、確かめにいった。
その酒屋には、アリスのおばさんバージョンが、にこやかに客に対応していた。
「あ、日本酒一級、二合瓶、二本ですね」なんて……後で、知ったが小田原では知る人ぞ知る有名人だそうで……
おばさんだったのはもうだいぶ昔である。
もうおばあさんかもしれない。
だから、訪れるなら、お早めに……(^_^;)
漁港、川、海辺、おばさんアリス、屋敷町、東海道、そして外郎(ういろう)元祖の店もある……外郎の元は仁丹のような万能薬……羊羹のようなお菓子のういろうは、薬を買いに来た客をもてなすために作られたそうな……ここらの由来は、なんと歌舞伎までつながるから、興味のある方は調べてください。お店には小さな博物館があり、外郎と薬の歴史を教えてくれる。
 ういろうは、名古屋じゃなくて本当は小田原だと、裁判沙汰になったとかならなかったとか……まあ、面白い話がいっぱいあって、これで、まだまだ小田原城にたどりついていない。
早川の駅に降りてから、一時間もたっていない。
歩いていけばあっという間に、目の前の世界が変わっていく。
けれど、真面目にじっくり、うろつけば、一日はつぶすことができる。
似たようなところを見つけるとしたら、小田原はいろんな人工のファンタジーを詰め込んだディズニーランドみたいなものである。ただ、こっちは、人工のファンタジーではなく、実際にあるファンタジーである。
 で、東海道小田原城側では、長く住んでいた僕もびっくりのものが待っていた。
 以下、次回に……
 まあいずれにしろ、小田原は季節ごとというか、月々単位で見どころがいっぱいあるので、時間があれば、今すぐにでも行ってみてください。
 ガイドブックは、現地でも手に入るが、歴史に興味がある方は、下調べをしていくと、いっそう面白い。
 とりあえずインターネットで、まずは、小田原市を検索してください。
 では……