首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「日本沈没」で観客沈没

「あーあ、ふざけんじゃあねえよ……こんなの見てられないよ」
 上映中に、周りに聞こえよがしにわめいて、席から立ち上がり、出て行った男の人がいた。
 この映画のヒーローとヒロインのラブシーンっぽい場面の時である。
 こんな事は、僕が、映画館で映画を見るようになって、半世紀ぐらい経つが、はじめての事である。
 男の人のマナーの悪さをとやかくいうより、僕も、その人と気持ちは同じだった。
 この映画を最後まで見るのは苦痛だった。
 旧作の「日本沈没」の出来が、それほど悪くなかっただけに、なおさらである。
 新しい「日本沈没」は、日本ではなく、見ている観客を沈没させてしまうほど、ひどい出来だった。
 おまけに、新作の日本は、ヒーローの自己犠牲による、とんでもない方法で、沈没を免れるのである。
 人に聞けば、その方法、地球が割れてしまうという数十年前のアメリカ製のC級SF映画が、地球分裂を防ぐ為にやったのと、同じ方法だという。
 そんな方法で、日本が救われても、多分、この映画の中で死んだであろう何千万の日本人も、この映画を見ている観客も浮かばれないであろう。
 ここまでひどいストーリーだと、CGがいいの特撮がどうのと言っていられない。
 どこがどうひどいか、指摘するのも疲れるから止めておくが、時間がよっぽど余っている人か、特撮オタク以外の人には、見るのは無駄だというしかない。
 この映画を見る時間が合ったら、自宅の地震対策を考えた方がましである。
 こうなると、今、映画化されているという「日本以外全部沈没」という「日本沈没」の便乗映画に、期待が高まる。
 筒井康隆氏の小説が、面白かっただけに、なおさらである。
 その映画がどんな出来だろうと、本編の「日本沈没」よりは、ましな事は確実だろうからだ。
 日本の時勢としては、今、「日本沈没」を作る時期として、間違いは無かったと思う。
 だが、こんな内容の「日本沈没」が出来上がるとは……!
 いったい、誰がこんな内容の無い原作のテーマとほど遠い作品を考えたのだろう……?