首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「リトルクリスマス」その2

注)このミュージカルは、上演時間が一時間ほどの小品です。劇団NLTで上演した時には、いろいろエピソードを付け加えて強引に一時間半程度にのばしましたが、やっぱり間延びした出来になってしまいました。一時間足らずのこの脚本が、ベストのようです。
 劇場で上演するには、最低二時間近くは必要です。したがって、それ以後は、上演されず今に至ってしまいました。

     プティミュージカル「リトルクリスマス」その2
                          作 首藤剛志 作曲 久保田育子

ジ ム 「でも、飲んだくれの親父が残していってくれた僕の才能とやらは、どうやら、
    あてにならなかったようです。
    最初の一年……どこの本屋さんも、僕のおとぎ話を買ってはくれませんでした。
    あてになったのは、なんと、この古びた金時計だったんです。        
    でもこれ、スイスのロンジン製とかで、骨董品としてえらく値打があるらしいん
    ですね。
    そこで、お金がなくなると質屋さんに入たり出したり……いつも困った時に、こ
    の金時計は、僕を助けてくれました。
    そう、三年前のクリスマスの日も、この金時計を質屋さんに入れて、僅かなお金
    で、三丁目のマクドナルドで、サービス期間中のビッグマック二個と、四丁目の
    ケンタッキー フライドチキンで三ピースのチキンを買って、この公園に通りか
    かったんです。 
    夕食の時間までは、まだ間があったから、このベンチに坐って、エサをついばん
    でいる鳩に、おとぎ話を聞かせてあげました。
    これ、僕の日課のようなものだったんです。だって、僕のおとぎ話を聞いてくれ
    る人なんて、公園の鳩ぐらいしかいなかったんですよね……フフフン……(苦笑
    して)しばらく、鳩を相手に話していると、ふと、後のベンチに人が坐っている
    のに気付いたんです」
      スポットがベンチに当る。
ジ ム 「それは、若い女の人のようでした。後をのぞくのは、失礼な気がしたので止め
    て、なんだか、とっても気になったんだけど、ヘイ、ね~ちゃん、おちゃ、しな
    い?……なんて度胸ないし、だいち、カフェに入るお金もない。
    だから、又、鳩を相手に、おとぎ話を始めました。
    一時間たちました。……二時間たっても、その人は動きませんでした。
    だから、そこで、たまらず、僕、後を向いて言ったんです。
    あのう、あの、あの、どうしてず~っとここに坐っているんですか?……女の人
    は黙っていました。
    僕も、思わず言葉を失って黙っちゃいました。なぜって、驚いたんです。僕……
    その人は、とっても長くて美しい髪をしていたんです。そう、僕がいつも書いて
    いた、おとぎ話のヒロインそのままでした。
    僕は、もう一度、聞きました。……どうして、ず~っと、ここに坐っているんで
    すか? ……彼女は、弱々しく答えました」
女の声 〔デラの声〕「あの……あなたのお話していたおとぎ話、素敵で……聞いていた
    かったんです。」
ジ ム 「ぼ、ぼくのおとぎ話を!……」
女の声 〔デラの声〕「ええ……」
ジ ム 「そ、そんな……僕は自分の頬を、何度も何度も叩きました。……だって、グリ
    ニッチビレッジに来てからというもの、僕のおとぎ話を聞きたいって言ってくれ
    たのは、これが、あとにもさきにも、初めてだったんです。
    僕は、うろたえ呆れ……嬉しくて、やった! ってなもんで……あれ?……」 
      ジムは空を見上げる。
      雪が、かすかに降ってくる。
ジ ム 「気が付くと、チラチラ雪が降ってきて、街灯に灯がともり、もう、夕暮れでし
    た。そこで、僕は聞きました。
    あのう、今日、御予定は?……」
女の声 〔デラの声〕「いいえ……」
ジ ム 「あの、そろそろ、夜がおいでになりましたし、寒いですし、よろしかったら、
    僕のアパートで、話の続きを聞いていただけませんか?」
女の声 〔デラの声〕「え?……あの……あなたは?……」
ジ ム 「あ、あの、すいません。ジム。……ジム ヤング。作家してます」
女の声 〔デラの声〕「さっ……作家って、あの、お芝居やテレビの?」
ジ ム 「え、ええ、田舎では芝居の作家もやっていました。あ、あ、でも、無理ですよ
    ね。若い女の人が、会っていきなり僕のアパートなんか……」
女の声 〔デラの声〕「いいえ、あなたのお話、もっと聞かせて……ね」
ジ ム 「え! え、ほんと? ええ、アパートに行けば、コーヒーだってあります。ネ
    スカフェのレギュラーですけど、それから、ビッグマックも二つ、フライドチキ
    ンも三本、あの……二本、食べていただいても構いません……
    それから、あの……僕と彼女は、僕のアパートへ……。
    その夜は、二十四年の人生の中で、最高の、本当に最高のクリスマスでした。
    そして、その日から、彼女と僕は、同じアパートで暮すようになりました。  
    彼女の名前はデラ。売れない役者志望の女の子でした。
    僕のおとぎ話のヒロインというよりは、どっちかっていうと、シンデレラ……
    と、言っても、ガラスの靴を使用後のシンデレラと言うより、使用前のシンデレ
    ラ……よく言って、マイ・フェア・レディになる前のイライザ……
    ま、今後に、期待が持てるといえば、持てるような、持てないような……その…
    …」       
女の声 〔デラの声〕「ちょっと、あなた、それな~に? はっきりしなさいよ、はっき
    り!」
ジ ム 「え?、あの、その……でも、彼女の、あの長い髪だけは、確かに、僕のヒロイ
    ンそのものでした。
    彼女の長い髪を見つめるだけで、心がなごんだのです」
      イメージ……流れるような、長い髪。                 
            やがて、それが砂時計の流れに変わって……
ジ ム 「小さなアパートでの暮らし、毎日の食事にも困る貧しさ……それでも最初の一
    年は楽しく過ぎていきました」
      ジムは歌う。                            
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど なんにもないが
      時は流れる 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
ジ ム 「そして、暮らし始めて一年目のクリスマス……
    デラは相変わらず売れない役者……。僕は、更に売れない童話作家でした。
    でも、僕は、デラを励まそうと、ささやかなクリスマスプレゼントを、送りま
    した。
    僕が買いた新作のおとぎ話です。                     
    デラ、聞いておくれ。僕が君の為に書いた新しい話だよ。
    ある男の子の話なんだ。
    その子はね……うん……風や雲、雨や雪、そして、普通の人達には見ることの 
    できない妖精達と話のできる少年だった。
    そこまで言うと、デラは、淋しそうに言いました」
女の声〔デラの声〕「わたし達も、その子のように、なにもおしゃべりしなくても、お互
    いの気持が分かりあえるといいんだけど……」
ジ ム 「えっ?……思わず、僕は、言葉に詰まりました」
女の声〔デラの声〕うううん……なんでもない……でも、あなたのそのお話、最近、テレ
    ビのアニメでマンネリ気味だわ……もち、おとぎ話としてじゃなくて、超能力と
    か、オカルトとか、サイコチックとか……この前も、わたし、そのアニメのアフ
    レコに出してもらったわ。当然、主役じゃなくて、一回、十ドルのちょい役……
    台詞はね……ギャー!……の一言。
    悪役の超能力でバラバラにされる、名もない通りすがりのオバサンの役……
    でも、私、一生懸命やったわ。うん!一生懸命やって、あまりの、ギャー!で 
    マイクが、壊れて、私、クビになっちゃった……ふふん……(苦笑)」
ジ ム 「そ……そう……」
      ジム、溜め息が、ポッと出た。                    
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計 
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
                                        
                             (つづく)