首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

[「リトルクリスマス」その3

ジ ム 「それから、又、一年がたちました。
    相変らず、デラの長い髪は美しかった。でも、相変らず暮しは貧しく、相変らず
    デラは売れない役者で、僕は更に売れない童話作家でした。
    そして、クリスマス……ボクはまた、彼女に新しいおとぎ話をプレゼントしまし
    た。
    名もない、金もない僕には、それしかプレゼントできるものがなかったんです」
女の声〔デラの声〕「……ジム、今年のクリスマスも七面鳥は無理みたいね……」   
ジ ム 「ああ……うん……でも、聞いてくれ、君に贈る僕のプレゼントを……昔々、ま
    だ、この国にインデアンしかいなかった頃、セントラル・パークのあたりに、妖
    精達の住む世界があったんだ。
    ところが、白人達が住みだし、レンガとコンクリートで、造られた街が広がり、
    人々の心が、煤まみれになりだすと、妖精達の世界は、だんだん小さくなってい
    った。そして、今はもう、ほんのわずかの、限られた人にしか、妖精の姿は、見
    えなくなってしまった」
女の声〔デラの声〕「そこで、ピーターパンのような男の子が…… 」
ジ ム 「いや、僕のは女の子さ」
女の声〔デラの声〕「(溜息)……どっちでもいいわ……ともかく、その子が、人々のす
    さんだ心をたちなおらせて、再び、妖精の国が、みんなと一緒に住んでいけるよ
    うにと、この大都会にやってきた……のよね」
ジ ム 「あん? なぜ知っているの?」
女の声〔デラの声〕「似た様なストーリー、テレビでやっているもの……ただし、テレビ
    は、もっと過激……その妖精の国の子は、魔法のマシンガンで、すさんだ心の連
    中をバリバリ、やっつけちゃう。
    名ずけて、〔妖精戦士ピーター・ポピンズ〕……
    これもアニメでね、私の友達が声の主役をやっているわ……私も出るはずだった
    の。ピーター・ポピンズの魔法を見て、ウッソー!って一言、言う役……でも、
    アフレコスタジオに行ったら、その台詞、カットされていて、あったま来ちゃっ
    たからスタジオのコーヒー、十三杯、タダ飲みして帰ってきたわ。
    でも、十三って数字がまずかったのよね。その日から次の金曜日まで、お腹が、
    ローラー・コースター……悲鳴も出やしなかったわ……
    あ、そうそう、その主役の女の子、実は同棲しているんだけどね、ほら、今、売
    れっ子の作家で、ピート・サイモンってペンネームの……」
ジ ム 「ピート・サイモン?……ピート・ハミルニール・サイモン……そか……すい
    ませんね!……僕の名がジム・ヤングで……」
      大きく溜息………
                                        
         「時は流れて」
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
    ………スポットライトにジムの姿がぽつんと浮び上がって……        
ジ ム 「それから又、一年がたった。
    デラの長い髪は、変わらなかった。
    デラが売れない役者であることも、僕が売れない作家であることも、変わらなか
    った。
    しかし、僕らは、変わらないことの貧しさに、もう耐えられなかった。
    お互いに、自分の才能のなさに失望し、いらつき、口喧嘩が絶えなくなり……そ
    の喧嘩の中身ときたら、口で言い様も無いほど、そう、極限までおぞましく、た
    だでさえ、少ない食器や家具が、宙を飛び、砕け散った…… 
    そして、それにも疲れ果てて……」
      かすかに、クリスマス・ソングが聞こえてくる。
ジ ム 「又、クリスマスがやってきた……
    僕は、決心した。これ以上、お互いを縛りあうのは沢山だ。
    彼女には、彼女の……そして、僕には僕の行き方がある。
    もう、僕は彼女に、僕のおとぎ話は贈れない……」
      ジムは、すべてをふっきるように、ダッと駈け去る。
                                        
                                        
                                        
                     暗 転                
                                        
                  P A R T 2             
                                        
      クリスマス・ソングが、かすかに聞こえている。
      その曲を口づさみながら、コートの襟をたて、髪をスカーフで覆った女……
      デラが来る。
デ ラ 「クリスマス……クリスマス……メリー・クリスマス。
    子供達にとっては、クリスマスから新年にかけて、いちばん、お楽しみの時期で
    すね。でも、私は、はたちをすこしばっか通りすぎちゃって、年の暮れって、な
    んとなくヤバイなあって感じ……わしゃ、まだ、おばんじゃな~い!……   
    (苦笑)……あ、申し遅れましたが、わたくし、デラ・マイルズ。
    ふる里は、カウボーイの国、テキサス。ヒャッホー!……でも、私は女の子。
    カウボーイは似合わない。なに?……けっこう、様になる? ノンノンノン……
    私はやっぱり、ブロードウェイのミュージカル!
    スポットライトを浴びて大スター。なりたい、なりたい一心で、親の勧める結婚
    を、とっと、さっさと蹴っとばし、家出して来てグリニッチ、やって来ましたビ
    レッヂへ……と、こうきちゃう。
    この街に来た時はもう、なんだか、足が震えちゃって、来た~って感じ。やった
    ~って感じ!」                             
                                        
         「グローイング アップ ドリーミング」            
    (2)                                 
      さあ いま 幕があく
      広がる世界 マイステージ
      あの街角に 夢がころがり
      この横町で つかむサクセス
      グローイング アップ ドリーミング
      グローイング アップ ドリーミング
                                        
      スポットライトが照しだし
      フル オーケストレーションがかなでる 独り芝居
      私だけの舞台
      グローイング アップ ドリーミング
      グローイング アップ ドリーミング
                                        
デ ラ 「でも、女の子一人、こんな都会で生きていくのは楽じゃなかった。
    どうにかこうにか、小さな劇団にもぐり込んだけれど、ライバルはいっぱい。
    とっても、役なんて貰えそうになかったの。
    その内、貯金も使い果し、アパートも追い出され、いまさら、国にも帰れず、田
    舎者の私には、友達もいなくて、どうしたらいいのか分んなくって……そう、あ
    れは、三年前のクリスマスだったわ。
    私は、街のショーウインドーを見つめながら、フラフラ歩いてた……
    三日も、なにも食べていなくて、ウインドーの中のクリスマス・ケーキが羨まし
    くって、プレゼント用のオモチャも羨ましくって、なにもかも羨ましくって……
    マッチ、買って下さい。マッチ、買って下さい。まるで、マッチ売りの少女……
    でも、マッチ売りの少女の方がまだまし……だって、私には、買ってもらうマッ
    チもなかったもの……                          
    そして気が付いたら、この公園に来ていたの。
    もう、一歩も歩けなかった。私、倒れ込むように、そこのベンチに坐ったの。
    そして、いつの間にか、時間がたっていた。もしかしたら、お腹がすきすぎて、
    気を失っていたのかもしれないわ。
    そして…… 気が付いたら、後のベンチに、男がいたわ。それも、なんだか知ら
    ないけどブツブツ喋っているの。私、ゾーッとして、早く逃げなきゃって思った
    わ。でも……駄目……お腹が減ってて、足が動かないの。
    仕方ないから、じ~っとしていた。どうせ、どうなったって、なくすものなんて
    もうなんにもないんだし、私、ようするに、いなおっちゃったのよね。
    そしたら、後のベンチの男が何を話しているのか分ったの……子供っぽい、いえ
    今の子供だっら、ダサイ! の一言で言いきられちゃいそうな、古いタイプのお
    とぎ話……それを、公園のハトに向って一生懸命、話しているの。
    退屈だったけど、お腹減ってて動けないし、仕方がないから聞いていたわ。
    一時間も二時間も、ず~っと……そして、あたりが暗くなった頃」
男の声〔ジムの声〕「あの、あの、どうして、ず~っと、ここに坐っているんですか?」
デ ラ 「来た、来た。しかと、しかと、知らんぷり。でも、よく考えてみれば、、他の
    ベンチには誰もいないし、わざわざここに何時間も坐っているなんて、変に思う
    のが当然よね。
    まさか、お腹、減ってて動けませんなんて、可愛い女の子の台詞じゃないし、だ
    いち、こんなスタイルのいい……ダメ! 反論は許しません……ともかく、そん
    な私が、三日も何も食べていないなんて言ったって、誰も信じてくれないでしょ
    ……だから、もう一度、あの人が……」
男の声〔ジムの声〕「どうして、ず~っとここに坐っているんですか?」
デ ラ 「私、答えたの。ちょっと気取って、あの……あなたのお話しているおとぎ話、
    素敵で……聞いていたかったんです。そうしたら、彼、なんかやたら感激するの
    よね。単純と言うのか、かわいいとゆ~か……」
男の声〔ジムの声〕「あの……今日、御予定は?」                 
デ ラ 「ある訳ないじゃん。(ハッとして、あわてて気取る)いいえ……うふっ……そ
    う言ったらあの人、私を、アパートに誘ったわ。
    危ない、危ない……相手の身元を確めなくっちゃ……あの、あなたは?……」
男の声〔ジムの声〕「あ、すいません。僕、ジム・ヤング。作家してます……」
        
                            (つづく)