首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

[「大和」が「ヤマト」になる日

まずは、前回、素人ブロガーの僕の疑問に答えてくださった方たちに感謝します。ありがとうございました。
で、今回は12月に見た映画について……
昔、三バカ大将というドタバタ映画シリーズがあったのですが、この十二月、驚くべき三バカ映画を見ちゃいました。
そのうちの二つは「2012」「イングロリアス・バスターズ」で、2作とも大爆笑映画……「2012」は、出来るだけ大きい画面の映画館(最近の映画館のスクリーンは小さすぎます。昔のシネラマ映画館……70ミリ映画館の大画面が姿を消して……その為か、演出までがテレビで見るDVD化を意識しているようなスケールの小ささを感じてさみしい昨今です。「2001年宇宙の旅」とか「アラビアのロレンス」なんて、大画面で見なければ、その価値は半分以下でしょう。
もっとも大画面ならではのスケールのある演出のできる人は、デビッド・リーン、ウイリアム・ワイラー。スタンリー・キュブリック(この人にはスパルタカスという映画があります)しか今、思いつかないのですが……黒澤明監督も70ミリ映画の「デルス・ウザーラ」という映画がありますが、大画面を使いきれているとは思えませんでした。
僕に言わせれば「スターウォーズ」も「未知との遭遇」も、演出のスケール感がテレビサイズに感じます。
で、「2012」は、画面が大きければ大きいほどバカバカしくて笑える映画です。あるかどうか知りませんが字幕のない日本語版があれば、もっと笑えるかもしれません。この映画のバカバカしさは大画面の映画館でいっそう引き立つと思うので、今年最後に大笑いしたい方は、劇場での鑑賞をお勧めします。どこが大笑いかをお話ししようとしたら「イングロリアス・バスターズ」でまた大笑い……演出はしっかりしているのに、中身はめちゃくちゃという奇妙な映画で、このバカバカしさもお話ししようかなと思ったら、ついにとどめの大バカ映画……日本のアニメ「宇宙戦艦ヤマト復活編」の登場です。ただし、こちらのバカさ加減は、大爆笑ではなく大激怒というか、なんかもう吐き気を催す気味の悪さです。
これほど、嫌な気分にさせられた映画は、僕の映画歴になかった気がします。
だから、この「ヤマト」のことを先に書きます。
というのが、40代、50代の人まで、「やまと」といえば「戦艦大和」でなくて「宇宙戦艦ヤマト」を先にイメージしそうな時代になっているような気がするからです。
 僕は戦争を知らない世代です。
 でも、戦艦大和が、沖縄へ片道の燃料しか積まずに、勝てるはずもない特攻出撃し、あっという間にアメリカ軍の集中攻撃を受け、ろくな戦闘もできず空しく沈没した戦艦だということは知っています。でっかい大砲を持った当時世界一の戦艦だったのですが、大砲の威力の時代は過ぎ去り、飛行機の戦力の時代になっていました。同型艦に武蔵というのがありまして、これは、レイテ沖の海戦で、少しは戦艦らしく戦ったのですが、これも飛行機の集中攻撃を受けて沈没。更に同型艦信濃というのがあり、航空母艦に作り替えたけれど、時すでに遅しで、あっという間に沈没。
余談ですが、僕の父は、海軍で長門という戦艦に乗っていたことがあり、終戦は沖縄のすぐそばの石垣島でむかえました。
沖縄は全滅ですから、父が沖縄にいたら、僕は生れていなかったわけです。
戦艦長門の運命については、書きたくもありません。……関心のある方は調べてください。いや、知っておくべきことだと思います。
軍の上層部に大和の片道出撃の時、日本が戦争に勝てると思っていた人がいたとは思えません。
つまり、ほとんどやけっぱちの特攻だったわけです。
特攻は乗員の死を意味します。
そんなめちゃくちゃな攻撃に出撃して、沈没したのが戦艦大和です。
乗員は、とても気の毒な言い方ですが、無駄な犠牲だった……。
そんな大和が「宇宙戦艦ヤマト」として、浮かび上がって地球を救う。
テレビアニメで、大和がヤマトになって宇宙を飛ぶのは、なんだか釈然としなかったのですが、実際の戦争では活躍できなかった特攻戦艦大和を宇宙で戦わせるというセンチメンタルな気分は分からないこともない。
放映当時の若い人や子供たちが夢中になったのも分からなくはない。
しかし、特攻は特攻です。
しかも、それが2度も3度もということになると……僕の書いた「戦国魔神ゴーショーグン」というアニメの台詞に「一度死んだ命、二度も死んでたまるか」というのがありますが、いいかげんにしてほしいと思いませんか?
でも、まあ、商売です。日本の為という大義名分がいつの間にか地球の為になりそれが愛の為になったりして……「なんだかなあ……」と思っていたら二十年ほど前、僕のところに「ヤマト」の脚本の話が来ちゃったんですよね。
で、「ヤマト」にこだわる大プロデューサーがどんな人か知りたい気もあってお会いしたら、いきなり、「今度の「ヤマト」はどんな話がいいかな?」と聞かれたのでその場のアドリブで「長く平和が続いて地球の人たちが平和ボケしているところに宇宙人が攻撃に来る。そこで、博物館でホコリをかぶっていたヤマトを持ち出すが、若い人たちは平和ぼけして全然、戦闘意欲がない。昔のヤマトの活躍を懐かしんでいるその博物館の半分ぼけた倉庫番の老人がヤマトの艦長になるが、乗員になり手がないからボーナスを高くつけてニートやフリーターを集めて訓練をする。けれど、てんでばらばらでみんなやる気がない。しかし、いよいよ宇宙人が攻めてくるとなると自分たちの命があぶない。みんな死にたくないのだが逃げ場もないから、めちゃくちゃに戦ってしまう。戦略も戦法もない。しまいには敵も味方もなく生きていたい一心でただめちゃくちゃに戦ってしまう……あまりのめちゃくちゃぶりに、宇宙人のほうがびっくりして、こんな凶暴な人類と戦っては命がいくつあってもたらん……と逃げていく。
気がつけば、廃墟と化した地球に、ヤマトだけが生き残り、それでも、勝利の雄たけびで、波動砲をどかーん!……なんてストーリーはどうですか? と言ったら大プロデューサーはデスラーのようなクールというか真面目な顔で僕を見て、「首藤君は面白いことを考えるねえ……」と言って、以後二度と連絡はありませんでした。
でも、それから二十年、大プロデューサーの博物館の倉庫でヤマトは生きていたんですね。
しかし、どんだけ特攻が好きなんだろう。
敵も味方もわけも分からず、特攻、特攻、特攻、その為のストーリー(三人の脚本名がタイトルされているけれど、脚本と呼べる代物じゃない)……だいたい、地球の滅亡が近いからって、他の星に移民するっていうのも、地球人の都合ってわけで、移民される方からすれば、迷惑なんじゃないのかなあ。
それに、司令官とか艦長とか親分格の人だけの判断で、戦闘が続けられるし、なんだかみんな好戦的で、続編の都合もあるのかもしれないけれど、ちゃっかり、ヤマトと主人公と地球は生き残る。
このアニメ、クラシックがやたら使われるけれど(そりゃ、僕も、銀河英雄伝説のアニメではクラシックを使ったが、その選曲にはスタッフ一同が頭を絞ったそれなりの意味があったわけで……使用クラシック集全二十二枚という恐ろしいCDボックスにつけた僕のナレーションを聞けばわかると思いますが……あ、これPRじゃありません。これ買って聞くのは、よほどの銀河英雄伝説フアンでしょうから、かるがるしく勧められませんよ)
この「ヤマト」の使い方(悪の登場シーンなど)は、クラシックの作曲家に失礼じゃないかと思うのです。
でも、なにより困るのは(僕の感じ方にすぎませんが)自己犠牲、特攻を格好良く見せたがることです。
「せんかんやまと」という名を聞いた時「戦艦大和」より「宇宙戦艦ヤマト」を思い浮かべる世代が増えているとしたら、かなりまずいぞと思うのです。
 この映画R18(18歳以下禁止)どころかR50にしたい気がします。
 このアニメに出てくるブラックホール、まともなブラックホールじゃありません。
 西崎ホールです。
 そこに波動砲をぶち込む宇宙戦艦ヤマトの姿勢だけは、正しいと言えるかもしれません。
 二部に出てくるのは石原ホールかな?
 二部では、そこに十二連発ぐらいの波動砲をぶち込んでやってください。
 でなきゃ、今も海に沈んでいる戦艦大和とその乗員のみなさんに申し訳ないじゃないですか……
 あ、申し遅れました。このアニメ、確か信濃が出てきました。次には「宇宙戦艦ムサシ」が出てきそうで心配です。
 では。