首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「COSMOS ピンクショック」二部……その4

 「COSMOS ピンクショック」二部……その4
              首藤剛志

○田園
   正に、ベートーベンの田園を思わせる風景。
   薄布をまとった女達がたわむれている。
   ひときわ美しい乙女、ディージーの花で、花占いをしてる。
   女達の星、レスボーの女王、フィレである。
フィレ「スキ、キライ、キライ、スキ、キライ…(最後の一枚で)スキ…スキか…一体誰を…一体、誰を好きだというの?わたしは…(微笑み)わたしは何の為に、こんな占いをしているというの?」
   と、どこからか、地響きが聞こえる。
   フィレ、空を見上げ………
フィレ「また、ゴミが落ちてきたの?…」
   女達が駈けてくる。
女A「王女様、空からロケットが…」
フィレ「よきにはからえ。適当に処分すればよろしいでしょう」
女A「それが…」
フィレ「どうしました。」
女B「これをご覧下さい。」
   コンパクトを開く。
   コンパクトがヴィジョンになっている。
女A「これが、ロケットの乗員でございます。」
   ヴィジョンに気を失っているミッチが写っている。
フィレ「女?」
女B「ハイ、すでに、素性を調べました結果、数万光年、光の星から、たった一人で旅してきた女だと…」
フィレ「数万光年…しかも、この暗黒空間の底にある、わが星にですか?…」
女A「はい…」
フィレ「美しいわ。その行動力…その勇気…わが星にふさわしい娘に思えますが、でも、なにゆえ…出会いが楽しみですね。」
   フィレ、ふっと笑う。

○王宮
   少女趣味の極みのような宮殿-。

○王女の間- 
   先刻の優しい笑いが嘘の様に、ひきつったフィレの顔-。
フィレ「なに?男を追いかけての旅ですって…」
   ミッチが頷く。
ミッチ「うん。宇宙の中心、宇宙の聖域に行けば、ヒロちゃんに会えると思うんだ。」
フィレ「目をお覚ましなさい。男には、女が追いかける値打ちなどありませんわ!最悪の生き物です。」
ミッチ「あ~あ、宇宙は広いんだな。女の人が、大嫌いな男の人がいると思えば、男の人が大嫌いな女の人もいる。」
フィレ「好きも嫌いもありません。男は悪そのものなんです。」
ミッチ「な、こと言ったって、男の人がいなければ、子供もできないし、この星だって滅びちゃうじゃない。」
フィレ「子供ができないですって?あなたは、よほど未完成な女性なのですね。女は女だけで、子供が産める生き物なのですよ。ごらんなさい、我が星のどこに男がおります?」
   王宮のヴィジョンに、星の様子が写る。
   どこもこかしこも、ギリシャ神話を思わせる半裸の女性ばかりである。
フィレ「この星には男はおりません。女は17歳になれば、自分の意志で子を生めるのです。もちろん女の子をね…」
ミッチ「でも…でもね…女の子しかいない星なら、なぜ男って言葉があるの?」
フィレ「ギクッ!」
ミッチ「いないものの名前を知っていたり、おまけに大嫌いだの悪だの、決めつけるのはおかしいわ。」
フィレ「男を知らない訳ではありません。この星には、恐ろしくも悲しい過去があるのです。」

○レスボーの過去
   エデンの園のような光景。
   裸の女達が戯れている。
フィレの声「遠い昔、この星は、女達の楽園でした。悲しみも憎しみもなく、女達は愛し合い、子を生み、育て、何もかもが幸福でした。」
   女達の一人が、ふと空を見上げ、目を輝かす。
フィレの声「けれど、ある日、空の彼方から、光り輝く美しい宝石が降りてきました。」
   空から降りてきたもの…それはヒロシを連れ去った、あの宇宙船である。」
フィレの声「巨大な宝石は、一人の人間を残し、再び飛び去ったのです。」
   宇宙船から光線が発射され、黒いシルエットの男が浮び上がる。
フィレの声「それが男でした。女達は、たちまち恋に落ちました。けれど、男は、その内の一人を、誰も選びはしなかったのです。」

○王宮
ミッチ「理想が高かったんだ。その男の人。」
フィレ「いいえ…」
ミッチ「えっ?」
フィレ「一人を選びはしません…」

○レスボー星の過去
フィレの声「か・か・か…片っ端からひっかけよった。見境もなく、女ならば…誰でもかれでも…!」
   シルエットの男…女達を抱き、口づけをする。
   女達は、バタバタと倒れていく。
N「そして、七日がたち、男が空の彼方に去ったとき、女達の間に、悲しみと嫉妬と、憎しみが残りました。やがて、悲しみと憎しみは、この星を暗黒空間の底に沈めました。男なんて、大嫌いだ~ッ!」
   女達の流す涙が池になり、川になり、滝となり…やがて王宮の中央の噴水になる。

○王宮
   噴水を見つめるフィレの目に涙が浮かぶ。
ミッチ「(しみじみ)男運が悪かったんだ…この星の人」
フィレ「言わないで…これでも、あなたは、そんな男を追うと、おっしゃるのですか。」
ミッチ「たぶん。ヒロちゃんは、そんな男の子じゃないわ。いいえ、男の人って、そんなに悪い人ばかりじゃないわ。」
フィレ「男を良く言うような女は、許せませぬ。」
   と、思わす剣を振る。
   部下の女達も、銃を構える。
   身構えるミッチ。
   と、その時、ド~ン!
   王宮の天井が破れ、ロケットが突っ込んでくる。
   王宮内はパニックである。
   ロケットのコックピットが外れ、ジェーンとランが、無様に落ちてくる。
ジェーン「アタタ!」
ラン「ここどこ?」
   二人、すぐにミッチを見つけ、
ジェーン「あ-っ!見っけ!」
ラン「となれば」
   二人、バシッとポーズを決め、
二人「先手必勝!」
   銃を抜き、ミッチをめがけて撃つ。
   ミッチは、素早く、フィレの部下の銃をもぎ取ると!
ミッチ「あと攻め素早く」
   物陰に飛び込んで乱射する。
   ジェーンとランは、慌てて、ロケットの影に飛び込んで応戦する。
ジェーン「やるじゃん、あの子」
ラン「銃を撃てるなんて、資料(データ)になかったわよ。」
ミッチ「(つぶやく)女の子がね、一人で宇宙を17年間も生きてきたんですからね。いろいろあるわよ。いろいろやるわよ。」
ジェーン・ラン「納得!」
   乱射!乱射!
   王宮の壁が次々に壊れ落ちる。
フィレ「やめて…やめて下さい。ええい!やめんか。やめィ!…しまいにゃ、おこるぞ!」
   フィレは、王宮の壁のレバーを引く。
   たちまち、ジェーン、ラン、ミッチの頭上から、蜘蛛の糸のようなものが降りかかってくる。
   がんじ搦めになる三人。
フィレ「おぬしら、女同志で闘ってどうする…仲ようせにゃいかん…敵は、男だけで沢山ばい…うん。おさえて…おさえてね…」
   と、三人を撫でる。
   まるで、さっきの華麗さが嘘のような、フィレの口調である。
                              (つづく)