首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

リトルクリスマスその4

  プティミュージカル「リトルクリスマス」その4
                      脚本 首藤剛志 作曲久保田育子

その3からつづく……
デ ラ 「私、それ聞いて、飛び上ったわ。作家……ほら、TVや映画でよくあるでしょ
    う……若くて、売れない作家と若い女優のお話……やがて、作家は有名になり、
    女優はスターになる。
    これだっ! これっきゃない!……
    甘かったのよね。でも、その時、私、若かったし、これこそ、神様がくださった
    クリスマスプレゼントだと思ったわ。
    それに、彼が言うには、マクドナルドのビッグマックも、三本あるフライドチキ
    ンの内の二本もくれるって言うし……あの人、自分は一本でいいって……彼、優
    しいでしょ?……それだけでも、歩く力が出てきたの。
    でも、どうせ食べるなら、ほら、温かい方がいいもんね。だから、聞いたの。
    あの……その、ビッグマック、さめていません?」
男の声〔ジムの声〕「大丈夫ですよ。うちの近くのスーパーの電子レンジで温めてもらい
    ますから……」
デ ラ 「はあ? だったら、そのスーパーでハンバーガーを買えばいいのに」
男の声〔ジムの声〕「いえ、今日、三丁目のマクドナルドは、バーゲンでスーパーより五
    セント、安いんです。安い方がいいでしょ?」
デ ラ 「五セント……五セント安い……三丁目は、ここから二キロは離れています。五
    セントの為の二キロ……それ聞いたら、なんか不安……でもね、彼の暖かいアパ
    ートの中で、お腹が一杯になれば、そんな不安は、遠くの遥か……退屈なおとぎ
    話には参っちゃったけれど、その夜は、久し振りに幸福なクリスマスでした。…
    …うん!                                
    ……そして、私、ジムと同じアパートに暮らすようになりました。
    私は、アルバイトをしながら劇団に通い、ジムは、部屋に篭りっきりで、おとぎ
    話を書いていました。
    貧しかったけれど、けっこう楽しかった……
    それに、いよいよお金に困ると、ジムの金時計が出番です。
    あの金時計……質屋さんに持って行くと、かなりのお金を貸してくれるんです。
    彼、いつも言っていました」                       
男の声〔ジムの声〕「親父が僕に残してくれたのは、僕の才能と、この金時計だけ。
    まだ、僕の才能は役に立たないけれど、この金時計は、僕達の為に、十分、働い
    てくれるよね」
デ ラ 「そして、質屋さんに金時計を預けてからは、ジム、しっちゃかめっちゃかに働
    きだすんです。
    地下鉄の工事から、道路工事、お金になりそうな事ならなんでも……そして質屋
    さんから金時計を払い戻してくると、また、部屋に閉じ篭って、おとぎ話を書き
    始めるんです。
    私、ジムの才能はともかく、金時計を質屋さんから戻す為に、メチャンコ働いて
    いるジムのことを見ていると、なんとなく、やっぱり、頼りになるのかなあ……
    なんて思ったりしたりして……そんな感じで一年がすぎました」
      デラは歌う。 
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計       時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに
      なにかが見える
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
デ ラ 「一年目のクリスマスが来ました。
    私は、売れない役者。ジムは原稿が一枚も印刷されたことのない作家……
    でも、私、ジムに頑張ってもらおうと、今はスターになった劇団の友達を通じて
    ジムの仕事を見つけてきました。
    私にしてみれば、精一杯のクリスマス・プレゼントでした。
    ……ねえ、テレビのシナリオのお仕事なの。
    ストーリーはね、野球が好きな親子がいて、そのお父さんが、息子をガンガンし
    ごいて、ニューヨーク・メッツのエースに育てる話なの。
    スター・オブ・ニューヨーク・メッツ……トッチャン、俺は、メッツの星になる
    んだ!」
男の声〔ジムの声〕「僕には書けないよ。僕が書きたいのは、心の安らぐおとぎ話さ。
    根性物とは縁のない世界……さ」
デ ラ 「でも……でも、お金にはなるわ」
男の声〔ジムの声〕「いまさら、お金の為なんかで書きたくない。許してくれ、デラ」
デ ラ 「そう……そうかもね……」
      デラ、溜め息……。                         
                                        
         「時は流れて」
                                        
      静かに 静かに 時は流れる
      なんにも 変らず
      積もる 砂時計 
      時は流れる 時は流れる
      なにも変らず ただ おぼろげに                   
      なにかが見える                           

                                        
デ ラ 「ジムの金時計は、質屋さんとジムの間を何度も行ったりきたりしました。その
    度にジムはメチャメチャに働き、金時計を払い戻してきました。私達の暮しは、
    ジムの金時計で支えられていたのかもしれません。
    ジムは、ジムのパパから渡された才能よりも、金時計の方を信じているようでし
    た。そして、二年目のクリスマス……私、それこそ、人に言えないぐらい頑張っ
    て、ジムの仕事を見つけてきました。
    自分がまだ売れもしない役者なのによくやるよ……人に笑われもしました。
    でも、ジムに目一杯のクリスマス・プレセントをしたかったんです。
    ……ねえ、こんどは、テレビSFのシナリオなの。二つの星が戦って、結局、両
    方とも全滅する話……暗いけど、それが、今のはやりなんですって……」   
男の声〔ジムの声〕「僕には書けないよ。戦いで人が死ぬ話なんて」
デ ラ 「でも、なぜか、主人公だけは行き残るそうよ」
男の声〔ジムの声〕「主人公も脇役も、敵も味方も同じ人間だろ。なぜ、殺し合わなけり
    ゃならないんだ。僕は、もっと優しい世界を作りたいんだ」
デ ラ 「……だめだこりゃ……」
      デラは、深い溜息を洩らす。                     
      デラは、歌う。                           
                                        
         「時は流れて」
      かすかに かすかに 時は流れる
      変るものなど ないはずなのに
      なにかが 確かに 見えてくる
                                        
                                        
デ ラ 「それから又、一年がたちました。
    相変らず金時計は、質屋さんとジムの間をいききしていました。けれど、私達は
    もう、耐えられませんでした……疲れ果てたのです。ジムの夢と、私の夢は、違
    うのです。
    私の夢は、役者になること。それは、現実の世界で幸福になること。
    でも、彼の夢は違う。誰の手にも届かない、雲の向こうの現実にない世界……
    いつまでたっても夢でしかない世界……
    私は、そんな世界では生きられない。ジムと私は違う」  
      デラは、歌う。                           
                                        
       「ラブ イズ イリュージョン」                  
   (1)                                  
      雨にうたれ 風にさらされ 
      化石になった日々が
      ぽろぽろと くずれおちていきます
      あれが夢なら さめないでほしかった
      あれがうそなら ほんとなんかいらない
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は まぼろし
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は錯覚 
      でも 知ってしまった 今はもう
      あなたの後姿 イリュージョン
      もう ふりむかないで
   (2)                                  
      夢があった 希望があった
      二人でつむいだ日々が
      ほころび みせてつくろえません
      あれが夢なら さめないでほしかった
      あれがうそなら ほんとなんかいらない
      ラブ イズ イリュージョン
      愛はまぼろし
      ラブ イズ イリュージョン
      愛は錯覚
      でも とりもどせない 今はもう
      去りゆく足音 イリュージョン 
      もう 帰らないで
                                        
                                        
  (最終へつづく)