首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「リトルクリスマス」最終回

    プティ ミュージカル「リトルクリスマス」最終回                                        
                                        
                  P A R T 3             
                                        
                                        
                                        
      「ラブ イズ イリュージョン」を歌い終ったデラの前にジムが来る。
ジ ム 「デラ」
デ ラ 「ジム」
ジ ム 「メリー・クリスマス」
デ ラ 「メリー・クリスマス」
ジ ム 「デラ、話したいことがある」
デ ラ 「私も……」
ジ ム 「僕が先に……早く言って気持を軽くしたい」
デ ラ 「いえ、私が先に」
ジ ム 「いや、僕達」
デ ラ 「いえ、私達」
二 人 (同時に)「別れましょう」
      ……間………                            
ジ ム 「そか……久し振りだね。二人の意見が合ったのは…」
デ ラ 「エエ、ほんとに久し振り」
ジ ム 「別れのクリスマスに、プレゼントしたいものがある」
デ ラ 「ジム……もう、夢物語はいらないわ……私もあなたにプレゼントがあるの」
ジ ム 「君からもらう仕事は、いらないよ」
デ ラ 「仕事じゃないわ。これを」
      金の鎖をだす。
ジ ム 「……」
デ ラ 「酒落てるでしょ? 街中、探して見つけてきたの。あなたの大切な時計に付け
    てもらおうと思って……」
ジ ム 「時計……?」
デ ラ 「あなたが、あの時計を払い戻すために、一生懸命に働いているのって、格好よ
    かったもん。だから、お別れの記念に……」
      ジムは受け取る。                          
ジ ム 「でも。どうしてこんな高いものを……」
デ ラ 「気分を変えただけ……」
      デラはスカーフをとる。
      長かった髪がザックリとショートカットになっている。         
デ ラ 「けっこう高く売れたの。私の髪……」
ジ ム 「なんてこった。……ふふふ……」
デ ラ 「どうしたの?」
ジ ム 「ボクは、君の長い髪に夢を見ていた。だから、別れの記念に髪飾りを……」
      デラ、受けとる。
デ ラ 「でも、どうしてこんな高いものを?……時計を質屋さんに入れたぐらいじゃ、
    買えない筈だわ」
ジ ム 「ちょっと気分を変えたくてね……あの時計は売った」
     ……間……
デ ラ 「髪のない髪飾り……」
ジ ム 「時計のないくさり……」
デ ラ 「だめね、私達」
ジ ム 「ああ、おろかというか、アホというか」
      二人は笑う。
デ ラ 「うまくいかないのよね」
ジ ム 「ああ、折角の別れさえね」
      二人、歌いだす。
                                        
         「愚かな二人」
(デ ラ) いつも こうよね 私達 
      かみあわない チャックみたい
      缶詰 買えば 缶切りがない
      お湯を沸かせば コーヒーがない
      愚かというのも 愚かしい
      フフフ ホホホ (ハモッて)ウフフフフ ホホホ 
      あきらめ笑いのハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
(ジ ム) いつも こうだね 僕達は
      かみあわない チャックみたい
      缶詰 買えば 缶切りがない
      お湯を沸かせば コーヒーがない
      愚かというのも 愚かしい
      フフフ ホホホ (ハモッて)ウフフフフ ホホホ 
      しらけあきれてハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
(二 人) あきらめ笑いのハーモニー
      背中合わせのハーモニー
                                        
デ ラ 「お別れね……」
ジ ム 「ああ」
デ ラ 「大事にするわ これ」
ジ ム 「僕もさ……」
デ ラ 「さよなら……」
      デラ、駈け去る。
      ジムは、ふっと息を吐き、ベンチに坐る。
      鐘の音……。
      雪が降ってくる。
ジ ム 「クリスマスか……クリスマスには、いつもデラがいた……フン、せいせいした
    ぜ……一人だけのクリスマス……三年振りか……フン、さっぱりしたもんさ……
    でも、クリスマスには、デラがいた……長い髪のデラが……仕事、仕事ってうる
    さいデラが……クリスマスにはデラがいたんだよな……」
      ジムは、口づさむように歌う。
                                        
        「オープン ユア マインド」                  
    (2)                                 
      ほら、目を閉じて 見えるだろう
      こころの扉を 開いてごらん
      見えない 何かが見えてくる
      オープン ユア マインド
      ユー キャン ダンス サムワン
      そっと手をとり ささえるように
      きみをやさしく エスコートする
      ユー キャン ダンス だれかと……
      (ラストのフレーズで、デラと、デュエットになる)          
                                        
      ジムの背後にデラが現れる。
      ジムは、振り返らずに……
ジ ム 「デラ、忘れものかい?」
デ ラ 「ええ、時計のくさりを買った残りで、フライドチキンを四本買ったわ……
    二本づつ……これで、私の髪がのびるまで、お腹がもつかしら……」
ジ ム 「さあ……僕は、髪飾りを買った残りで、ビックマックが二個……一個づつ……
    テレビのシナリオとやらで、金時計が買えるようになるまで、もつかな……」
デ ラ 「さあ……でも、アパートには、ネスカフェがスプーン二杯分は、確かに残って
    いるわ」
ジ ム 「ああ……クリスマスだね」
デ ラ 「ええ……クリスマスよね」
      デラはベンチに坐る。
      ジムと背中合わせである。
      二人、夜空を見上げる。
      雪が夢の世界のように舞って、遠くで鐘の音が聞こえる。
      舞台は、ぐんぐん暗くなり、雪だけが踊っている。
                                        
                                        
                          幕 (一九八三年十二月初演)