首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「初恋」

 ぼんやりしていると、どんどん月日が経って行ってしまう。
 気がつけば、もう12月の第一月曜日ではないか。
 このブログも、書庫に「リトルクリスマス」などを載せているうちに、がらあきになってしまっていた。
 気を取り直して、また書き込んで行こうと思う。
 先日「初恋」という日本映画をDVDで見た。
 内容は、題名とはあまりにかけ離れた話で、なんと、1968年に起きた三億円事件の実行犯が女子高生だったという、どう考えてもありえないストーリーである。
 三億円事件といっても、今の人はピンとこない昔の事件かも知れないが、1968年に高校を卒業した僕には、リアルタイムで、世間が大騒ぎになったのをよく憶えている事件である。
 府中刑務所の近くで、三億円を積んだ現金輸送車が何者かが運転する白バイに止められ、現金輸送車に爆弾が仕掛けられているという大嘘にひっかかり、車から逃げた途端、現金輸送車ごと、三億円を盗まれたのだが、警察の必死の捜査にもかかわらず、犯人は捕まらず、とっくに時効も成立し今にいたっている謎の事件だ。
 いまだに三億円が使われたという形跡もないらしい。
 この犯罪、一人の死者もけが人も出ず、三億円が消えてしまった。
 その三億円だって、おそらく保険がかけられていたろうから、直接、損をした人は多分いない。
 その鮮やかな手口に、喝采した人達も多かった。
 もっとも、警察の権威をかけた必死の捜査で疲れ果て、過労で倒れた警察の方もいたから、人畜無害な犯罪とは言いがたい点もあるが、ともかく、世間が呆気にとられ、犯人が誰か?が、何年も話題になった大事件だった。
 その犯人が、女子高生だったなどと云う、とんでもない仮定のストーリーを、なぜ、今ごろ映画にするのか良く分からないが、その当時、この映画の犯人と同世代だった僕らには、荒唐無稽に思えるストーリーをのぞけば、どこかしら胸に響くものがある映画だった。
 つまり、事件はともかくとして、背景になる1968年ごろから1970年あたりの若者の風俗が、けっこう、上手く再現されている気がするのだ。
 かたや安保闘争、かたやフーテン、どこか熱く、どこか気だるい奇妙な気分が、今は殆ど忘れかけている僕の記憶の中の、甘酸っぱい部分をくすぐるのである。
 あの時代の再現を、「三丁目の夕日」のようなわざとらしく人工的なCGなどでなく、安っぽいセットと、多分ニュースフイルムと、ラジオのニュースで、表現しようとしているのも好感が持てる。
 カラーも、色調を押さえて、派手に見せない努力をしているようだ。
 ラストシーン……大人になった主人公の女子高生の姿に、「心の傷には時効がない」などと気の利いた台詞がかぶるが、正直、映画のストーリーはスカタンである。
 しかし、主人公の女子高校生が、今は僕と同じ年齢になっている事を思うと、時間の流れに、
ふむーなるほどな……と感傷的になってしまう。
 映画にもいろいろな見方がある。
 1966年ごろから1970年あたりが青春だった人には、案外受けるかも知れない。
 つまり、「赤ちょうちん」や「同棲時代」や「神田川」の世代である……といっても分からないか?。
 僕も、実践的な「初恋」は高校時代だったなあ……などと、映画とは関係のないことまで思い出してしまった。
 ただし、その年代の人達が、現在の年齢になって「初恋」などという題名の映画を、見ようとするとは、とても思えないのだが……。
 いまだに、この映画を作った人たちの気持ちが分からない。

 
 
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