首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

黒澤明VS.ハリウッド

 レンタル店で借りたDVDを三本立て続けに見たが、そろって、ろくでもない映画だったので時間の浪費だった。
 僕にとって箸にも棒にも掛からない映画は、紹介しても仕方ないし、もしもその映画を気に入っている人がいたら、その人達の反感を買うかも知れないので題名を書くのも控えることにする。
 だが、本については先日の「複眼の映像……私と黒澤明」つながりで読んだ「黒澤明VS.ハリウッド……トラトラトラ!その謎のすべて」田草川弘著……文藝春秋刊が興味深かった。
 「トラトラトラ!」という日本の真珠湾攻撃を描いた映画の、日本側の映画監督だった黒澤明氏が、突然、監督を降ろされた事件の真相を書いた本である。
 この事件の日本側の資料が少ない為、筆者は、ハリウッド側資料を探してこの事件を描いた労作だ。
 この本によると、ハリウッド式映画作りと日本式……というより黒澤明流映画作り……の
行き違いから生じた悲劇と言うしかない。
 ちなみに、黒澤明氏が降ろされた後に完成された「トラトラトラ!」を僕は見ているが、
戦争映画としては、なかなかよく出来ていると感心した覚えがある。
 あまり、日本の評判はよくない映画だがノルマンディ上陸作戦を俯瞰から眺めた「史上最大の作戦」を、僕は良くできた映画だと思っているから……同じ題材を描いたスピルバーグの「プライベートライアン」を僕は出来がいい戦争映画とは思っていない……「史上最大の作戦」と似たような視点の「トラトラトラ!」が好きなのである。
 黒澤明氏が、もしも、「トラトラトラ!」を作ったらどうなっていたかは、今更、言ってもしょうがないことである。
 だが、この本で印象深いのは、ハリウッド側の製作者が、最後まで黒澤明氏の才能を疑ってはいなかったと言う部分だ。
 むしろ、ハリウッド式映画作りに黒澤明流映画作りが向いていなかったことを、残念がっている節がある。
 才能は才能として認める。
 そこいらがアメリカ的な考え方なのだろう。
 だからこそ、日本映画界から見放されかかった後の黒澤明映画……「乱」とか「夢」等……に、アメリカの若手製作者達は、協力を惜しまなかった。
 黒澤明監督の「トラトラトラ!」が実現されなかったが、黒澤明監督は幸せな監督だと思う。
 僕個人は、黒澤明作品を、さほど好きではない。
 どちらかと言うと、世界に知られた日本の監督としては小津安二郎作品や溝口作品、成瀬作品のほうが気に入っている。
 それだけに、黒澤明監督と言う人の才能の運の強さに、いささか辟易しながらも、感嘆するしかない。
 どうでもいいことだが、「黒澤明VS.ハリウッド」という本は、講談社ノンフィクション賞を受賞しているようだ。
 映画や黒澤明作品に関心のない人にも、興味深く読める本ではある。
ともかく、僕には、面白い本だった。