首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

未公開作「幻夢戦記レダ2」その18

 (仮)「幻夢戦記レダ2」 テイスト オブ ハニー その18
                        ストーリー・脚本 首藤剛志

○街(夜)                                   
     晶子の悲鳴が闇に響く。                        
     陽子、足を止め振り返る。                       
 陽子「晶子さん・・・・・ 」                            
     陽子、剣を抜き、震えながら、今来た方向へ戻っていく。         
     街角から、ゼンが出てくる。                      
     脇に、白蝋化した晶子を抱えている。                  
     ゼン、陽子を見て、ヒヤリと笑う。                   
     晶子の体を路上に投げ出す。                      
 陽子「!・・・・」                                
     陽子、ショックで膝をつく。                      
 陽子「どうして・・・・こんなことって・・・・・ 」                   
 ゼン「逃げられぬと云ったろう・・・・・ さあ、わたしの元へ来るがよい。・・・・・ お前が望
    んでいるわたしの腕の中へ。」                      
     ゼン、近づいてくる。                         
     ビューン!                              
     いきなり、ゼンの体をかすめて、杏子と健一の乗るエアスクリューが突っ込ん
     でくる。                               
     杏子、陽子の襟首を掴むと、そのまま上空にすっ飛んで行く。       
 陽子「いや! 離して! 晶子さんが! 晶子さんが」              
 杏子「分かってるさ。でももうしょうがない。しっかり掴まってろよ。」      
 陽子「いやだ! 離して!」                          
     もがく陽子。                             
 杏子「馬鹿! 一人で何が出来るんだ!」                    
 陽子「!」                                  
     陽子、がっくりとうなだれる。                     
 N 「そう、そうなんです。わたしは、いつでも何も出来はしない。」       
     白蝋化した晶子の傍で、陽子達を見上げるゼンの姿が眼下に遠ざかっていく。
                                        
○岩山の上(夜)                                
     三日月が、神殿を照らしている。                    
     陽子、肩を落として坐っている。                    
     杏子が来て、横に坐る。                        
 杏子「元気出せよ。」                             
 陽子「杏子、弱虫でのろまなわたしがいなければ、みんな、まだ、助かっていたかもし
    れないわよね。」                            
 杏子「(肩をすくめ)分かんないよ。そんなこと・・・・・ けど、現実は、あたい達しか残
    っていない。」                             
 陽子「ね、もう足でまといになるわたしなんか、構わないで・・・・でなきゃ、今度は、あ
    なたが危なくなるわ。」                         
 杏子「出来ないね。」                             
 陽子「えっ?」                                
 杏子「何となく、あんたは他人のような気がしないのさ・・・・」           
 陽子「・・・・・ 」                                
 杏子「あたいね、ちっちゃい時から親も兄弟もいなかった。だから一人で突っ張って生
    きているけど・・・・・ ほんとは、あんたみたいにモ女の子メしたかったんだ。うう
    うん、本当は、元々あんたみたいな女の子だったのかもしれない・・・・でも、今更
    あんたみたいになれないし、なれっこもないよね。」            
 陽子「杏子・・・・」                               
 杏子「だからさ、あたい、なくしちまった自分を守りたいのかもしれない・・・・あんたを
    守ってね・・・・迷惑かい?」                        
     陽子、何度もかぶりを振る。                      
     涙がじんわりとにじんでくる。                     
 杏子「明日は、あそこへ突っ込む。今のうちに眠っておいたほうがいいよ。」    
                                        
     二人、見つめあう。                          
     陽子、コクリとうなづく。                       
     少し離れた岩場で、頬杖をついている健一がつぶやく。          
 健一「男のはいり込めない世界か・・・・」                     
                                        
            *           *               
                                        
     陽子、岩場を背に眠っている。                     
     ふっと目を醒ます。                          
     横に杏子が眠っている。                        
     陽子、杏子の肩に寄り添って、目を閉じる。               
     杏子、気付き、陽子の肩に手をおき、目を閉じる。            
     抱きあうように眠る二人。                       
                                        
○朝日が昇る。                                 
     神殿を見つめている陽子と杏子と健一。                 
                                        
○岩山の上                                   
     エアースクリューのエンジンがかかる。しがみつく様な三人を引っ張って、エ
     アースクリューが、岩山から飛び出す。                 
                                        
○神殿上空                                   
     エアースクリューが飛んでくる。                    
     その前方に、雲霞の大群の様な、兵士達の浮遊メカが、集結してくる。   
 健一「わっ! ダメだこりゃ!」                        
 杏子「かまうか!」                              
     エアースクリュー、大群のなかに突っ込んでいく。            
     と、大群は道をあけ、なんの攻撃もせずに、エアースクリューを通す。   
 健一「あん?」                                
 杏子「行くのみ!」                              
 陽子「うん」                                 
     神殿の扉が開く。                           
     エアースクリュー、飛び込んでいく。                  
                                        
○神殿の広間                                  
     金色に輝く、レダの女神が立っている。                 
     仏像というより、リアルで官能的なインドの女神像に似ている。      
     半裸の体の腰には剣……。                      
     その手に、銀の指輪が輝いている。                   
     エアースクリュー、飛び込んで来る。                  
     急ブレーキがかかる。                         
     前方に、三つ壁の屋敷の小姓頭が立っている。              
 小姓頭「よくぞ、ここまで、来られました。しかし、あの指輪を手に入れる者は、ただ
     一人・・・・最後の試練が待っております。」                
     いきなり、小姓頭の小さな体が内側から弾け飛び、ゴンの体が現われる。  
     ゴンは、まさかりを持っている。                    
     身構える杏子。                            
     健一が、はちまきをして、包丁を両手にもち、進み出る。         
 健一「ここは僕に任せて、君達は指輪を・・・・・ 」                 
 杏子「(溜め息)無理だよ。」                         
 健一「うるさい。女は黙ってろ! このまま見せ場なしで終わってたまるかってんだ。
    行けったらいけよ!」                          
     健一、包丁を、曲芸のようにくるくる回しながら、            
 健一「さあ、でかいの! 三枚おろしに料理してやらあ。」            
     ゴン、まさかりを振り降ろす。                     
     健一、かろうじてかわす。                       
     更に、振り降ろされるまさかり。                    
     健一の包丁が、はじき飛ばされる。  (19へつづく)