首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

引きこもり雑感

 今日も引きこもり……煙草ばかりが減って行く。
 僕はプロジェクターを持っていて、部屋が狭いので、ベランダに面した窓の前に、スクリーンをおいている。スクリーンは上げ下げ出来るが、面倒くさいので開きっぱなしにしている。
 そうすると、窓が完全にふさがり、外の光が入ってこない。
 電灯を点けないと、昼でも真っ暗やみである。
 うたた寝してふと目覚めると、昼と夜の区別がつかない。
 昨日が日曜日だから、今日は月曜日か、しかし、アナログ時計だと、昼の十一時か夜の十一時か分からない。
 しかたなく、仕事場のドアを開けて外へ出る。暗い……廊下の電気が点いている。
 夜の十一時だと分かる。
 エレベーターに乗り、一階に行く。
 三日分の郵便物を取るためだ。
 僕の仕事場のマンションは、夕方以降マンションのカードを持っている人以外、誰も入れなくなり、郵便受けは全て一階にある。
 郵便を入れる場所は外からで、受け取る方はマンションの中から金庫のように暗唱番号を押して、自分の郵便受けを開けて、中に入っている郵便物を受け取る仕組みになっている。
 昼間はマンションの自動ドアが開いているが、管理人の前を通らないとエレベーターや階段に行けない。
 したがって、郵便配達さんも、宅配便屋さんも管理人のチェックを受けないと、中に入れない仕組みになっている。
 防犯体制強化もいいが、ここまでくると、引きこもりと言うより檻に入れられているようである。
 別に、僕が望んだ訳ではない。
 たまたま借りた仕事場が、そういう仕組みのマンションだったのだ。
 郵便受けを開ける。
 どさっと中身が落ちてくる。
 その音だけが異様に響く。
 ダイレクトメールやチラシばかりで、僕にとって必要な手紙は一通もなかった。
 ようするに、引きこもりに、こんな便利なマンションは無い。
 引きこもったら、外への接触は電話とメールしかない。
 外からも電話以外、中の様子は分からない。
 電話は、変な勧誘電話よけに、留守電にしている。
 これで、家賃が自動引き落としだと、僕のような自由業の場合、何ヶ月も、引きこもったまま、誰にも僕の状態が知られないでいられる。
 推理物は苦手だが、何かのネタになりそうな気がする。……が!……
 先日、隣の神山町で、ミイラ化した女性が発見された。
 一年前、マンションの風呂場で倒れて亡くなった独身の自由業の知人も、発見されたのは死後数日後だった。
 八ヶ月前までは小田原に住んでいたが、そこは、鍵をかけなくても、泥棒のうわさすら聞かなかった。
 そのかわり、どこに行っても、誰かが見ていた。
 見慣れない不審者はすぐ分かった。
 それが、うっとうしくもあったが、今思えば、懐かしい気もする。
 やっぱり、東京は……、渋谷は……、人の住む場所ではなくなってしまったのかもしれない。