首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

「トゥモロー・ワールド」

 やたら、いいという人と、つまらないという人の両極端に分かれている映画、「トゥモロー・ワールド」をDVDで見た。
 原題は「CHILDREN OF MEN] ……「トゥモロー・ワールド」という日本の題名から感じるSFイメージからはかけ離れた映画である。
 確かに「トゥモロー・ワールド」には違いないのだが、なぜか子供の生まれなくなった近未来が舞台で……全世界は、2000年代の現代が抱えるありとあらゆる問題の延長上でめちゃめちゃだが、かろうじて、イギリスだけは頑張っている。
 なにしろ、近未来でも、ユーロでなくポンドが通用している世界なのである。
 イギリスは、他の欧州の国と違うんだぞ! という頑固さが垣間見えてなんだかおかしい。
 ほとんど、イギリス以外全部沈没状態で、世界中の難民がイギリス目指してやって来ている。
 反政府運動やテロも横行している。
 貧富の格差もひどく、未来を託す子供がいない。
 SFコメディじゃないから、そんな状況のイギリスを、まじめに描こうとするとえらく悲惨である。
 地味、暗い、みじめである。
 そんな絶望的な近未来に、全世界を通じてたった一人、ある黒人女性が、十数年ぶりに妊娠した。
 人類の未来にも自分の未来にも絶望して退廃を絵にしたようなアル中気味のおじさんが、その女性と産まれた子供の為に、頑張るというのが大筋である。
 この映画、コメディじゃないと書いたが、もしかしたら、イギリス風のブラック・コメディなのかもしれないとも思う。
 戦闘真っ最中の人々が見せる赤ん坊の存在に対するリアクションなど、感動を通り過ぎてブラック・コメディだと思わなければ納得がいかない気もする。
 この映画の抱える未来観は、生ぬるく平和な日本で育った若い人には、「暗い」という一言で、嫌われてしまうかもしれない。
 しかし、この映画を作った人たちは、異常なほど情熱を持って、その未来を映像化しようとしているのがよく分かる。
 いいも悪いもなく、こんな素材を映画にした人達には呆れるしかない。
 監督の才能なのかどうか、はっきりは分からないが、クライマックスの戦闘シーンの異様さだけでも、見て損はない。
プライベート・ライアン」の戦闘シーンがハリウッドなら、こちらは、イギリス製だあ……と、胸を張っている気負いが見えるような長回しのカットは、この映画を見逃さなくてよかったと充分思わされるだけの力がある。
 資本はアメリカなのかもしれないが、中身はしっかりイギリス映画を主張している。
 ストーリーがどうだ。設定がどうだ……といろいろご不満もおありでしょうが、とりあえず観てみたらと、勧めたくなる映画である。