首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

映画「東京タワー オカンとボクと時々オトン」

漬物を食べる時間を見計らって漬けるヌカ漬け。漬ける野菜の種類によっても、ヌカに漬ける時間が違う。
 それぞれの家庭で好みの漬け具合が違い、こればかりは、どんな料亭でも真似はできない。
 みそ汁と共に、日本の家族それぞれの味がある。
 毎日、毎日、そんなぬか漬けのぬか床を管理するのが、家庭の主婦の勤めだった時代があった。
 僕の母も、毎日の食卓に出るヌカ漬けの味を気にする人である。
 だが、そんな、なつかしいぬか漬けの味は、母の世代で終り、今の五十代以下の女性で、美味しいぬか漬けを漬けられる人は、ほとんどいないだろう。
 ぬかみそ臭いおばさんという表現さえ少なくなり、毎日、かき混ぜなければならないぬか床など、まっぴらご免という人がほとんどで、ぬか漬けは、スーパーで買うものと決めてかかっている女性も多いだろう。
 この映画、母という存在を、僕らの世代に意識されてくれるぬか漬けと、ぬか床のエピソードが出てくる。
 それだけで、この映画を観る僕の目は、緩んでくる。
 オカン=ぬかづけなのである。
 今時の、お涙頂戴映画に、ぬか漬けが出ただけで感激である。
 後は、あまりじめっぽくならないように、とんとんとストーリーが運んで行くのも好感が持てる。
 役者も、ぬか漬けが似合わない松たか子さんが、ちょっと浮いている気がするが、他の人たちは上手く演じていると思う。
 特に「オトン」役の小林薫氏が見せる、死期の近づいた「オカン」と母親孝行に励む「ボク」に対する、父としての存在感を喪失した自分を意識した演技はいい。
 だが、ひんぱんにでてくる、「ボク」のモノローグが、ちょっとうるさい感じもする。 
 東京タワーは、僕も展望台まで、まだ昇った事はない。
 空がすすけて、タケノコのような高層ビルが見える東京タワーを東京のシンボルだとも思っていない。
 オカンは、本当に東京タワーに昇りたかったのかどうか……?
 せっかく、ぬか漬けがエピソードに出てきたのだから、東京に住む「ボク」の友達と時々現れる「オトン」に「オカン」が漬けた漬物を食べさせる場面がないのが残念な気がする。
 「東京タワー」という題名より「東京でオカンのぬか漬け」という題名の方がいいような気がするが…………駄目だろうな。