首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

サヨナラポーズは何度でも……

 今日も出かける用事がない。
 また私語も冗談も無縁になりそうな一日だ。
 用事もなく、友人に電話するのも気が引ける。
 だいたい、相手の顔を見ないで会話する電話やメールが好きではないのである。
 昔の手書きの手紙は、筆遣いから相手の気持ちが伝わる気がして嫌いではなかったが、ワープロの手紙は、相手の気持ちが見えない気がして好きになれない。
 今、小説も脚本も、ワープロで打つのが常識のようになってしまったが、原稿用紙に鉛筆やインクで書かれたもののほうが、書き手の乗りが見て取れて、たとえ、その原稿が悪筆だとしても、読みやすかった。
 ところで、野球はアメリカが思わぬ敗退をして、アメリカにも韓国にも負けた日本がたなぼたで、次ぎに進出できるそうだ。
 メジャーが負けるなんて、世の中、何が起こるか分からない。
 思わず、天井を見上げたが、僕には、ぼたもちなどおちてきそうにない。
 このまま部屋の閉じこもっていると、おかしくなりそうなので、街に出て渋谷でいちばん大きなレンタルビデオ屋に行った。
 別に、ビデオを借りるつもりはなく、今、何が借りられているか、何が面白いか、僕の作品のビデオはおいてあるかなど、店員の人と話したかったのである。
 僕は、見知らぬ人とも平気で話せる特技がある。
 店員さんは迷惑だったろうが、私語と冗談だけは少し話してきた。
 何も借りずに出てくるのは悪いから、昔、見て、ライザ・ミネリが男とサヨナラする場面が格好良かったミュージカル「キャバレー」を借りてきた。
 ずいぶん、昔に見た映画なのに、細かいところまでよく覚えているなあと思ったら、なんと、VHDで、僕の持っている作品である事に気がついた。すっかり忘れていたがVHDはレーザー・ディスクの出た頃に、ビクターが対抗して出した映像レコードのようなもので、今は、どこの店にも見当たらない。
 レーザー・ディスクが発売中止になる何年も前に、消えてしまった映像方式である。
 VHDの「キャバレー」も、押し入れをひっくり返せばどこからか出てくるだろう。
 そんな気力はもうない。
 僕は、レンタル屋から借りてきた「キャバレー」のライザ・ミネリに、何度目かのサヨナラをした。面白いミュージカル映画だから、まだ見ていない人は、一度、ライザ・ミネリとサヨナラしてください。多分、僕の見た映画で、いちばん格好いいサヨナラポーズです。
 この映画を見たのかどうか知らないが、そっくりのポーズでサヨナラした女性のことを思い出した。
 女の子なら、一生、一度は、やって見たいサヨナラのポーズなんだろうなあ……と、思う。