首藤剛志のふらふらファイル箱

人並みのつもりにしては、ふらふらしています。

松涛中学校

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この闇の中に浮かぶギャラリーのようなディスプレイ……なんだと思います?
 僕の仕事場から、五分ほど歩いた所にある中学校の壁なのである。
 明るい窓の中には、在校生の書いた絵が、展示されている。
 夜の寂しく暗い住宅街の中で、ひときわ、目立っている。
 この中学校、実は、僕と僕の妹二人が、通った母校で、松涛(しょうとう)中学校という公立の中学校である
http://academic1.plala.or.jp/shoto/
 位置としては、渋谷区のど真ん中にあるといっていい。
 僕の「都立高校独立国」という小説では、高校に昇格させて、モデルにした学校でもある。
 僕らが中学生の時には、在校生が千五百人近くいて、渋谷の商店街の子、円山町という花街(いまはラブホテル街といったほうがいいかもしれない)の子、松涛の住宅地の子、様々な種類の家の子がごちゃごちゃと入り交じったバラエティにとんだマンモス中学だったが、ここ数年は、一学年に五十人もいない、寂しい中学になってしまった。
 噂で聞くと、今年あたりの入学生は、十人に満たないという。
 千五百人も収容していた中学に、今は生徒がほとんどいないのである。
 先生の数の方が多いとさえ言われている。
 子供が来なくなった理由のひとつは、少子化もあるが、渋谷が余りに巨大な繁華街になったため、地価や家賃が高くなりすぎ、実際に住んでいる人が少なくなり、子供がほとんどいなくなったからである。
 渋谷の中心部は、若者の街ではあるかも知れないが、子供のいない地帯になってしまった。
 中学校のOB達が、必死に、中学校の存続を叫んでいるが、通う子供がいなくて、渋谷の真ん中で広い敷地を占めている……なにしろ、三階建て以上の校舎が三つあり、野球の練習の出来るグラウンドがあり体育館があり、プールがあり、テニスコートまであるのだ……いつまでこの中学校が存続出来るか難しい問題である。
 英語教育強化、外国人生徒を歓迎するなど、学校側は、懸命に生徒集めをしている。
 僕らが通っていた小学校は、すでに無くなってしまった。
 今小学校のあった場所は、東急本店とBunkamuraになっている。
 この上、中学校が無くなるのは、寂しいから、なんとかしたいのだが、ともかく渋谷区にいる子供は、松涛中学に行ってくれと、頼むしかない。
 少子化と、人が集まってくるが、住んではいない繁華街……その現状を身近に感じさせてくれる中学校が、松涛中学校である、
 ほとんど、誰も通らない住宅街の夜……光り輝いて在校生の絵を展示している壁は、「中学校はここにちゃんとあるんだよ」と、渋谷の親と子供たちに呼びかけているように見える。
 この壁のギャラリーの灯が、消える日が来ない事を願っている。